夜通し歩いて諦めろ
俺には、あの娘は用無しさ────
去年は小林旭芸能活動50周年と言う事で、俺の様な俄フリークには、実に有り難いイベントが目白押しだった。つくづく、良いタイミングでファンになったと思う。浮かれた俺は、方々でこの事を書き込んだ。その際、何を勘違いしたのだろう、「小林旭芸能活動50周年」を「日活50周年」と間違えていた。その事で、恥ずかしい思いをする事は無かった。スルーされて寂しい思いをしただけさ。
さて、今回の一本『女を忘れろ』は小林旭の初主演作だ。当然の様に、50周年記念企画の一つである、ファンが選んだ映画25本────ケチ臭いな。50周年なんだから、50本にしろよ────DVD化のハナを飾っている。
主人公、田所修は元ボクサー。試合中、相手選手を失明に追い込んでしまった事から引退。ドラマーとして生計を立てる傍ら、その選手の医療費を世話している。
彼の傍には、一人の女が居る。内縁の妻、雪枝。作中でヤクザの親分が曰く、「日本一の女房」だ。修にとって、あまりに都合が良過ぎる女なので、或るいは嫌悪感を覚える女性も居るかも知れない。
或る日、修は一人の女性と出会う。浅岡ルリ子扮する三木尚子だ。父を喪った彼女と母親は、嘗ては父の部下であり、現在は土建屋を営んでいる大沢と相談し、アパートの経営に乗り出そうとしている。所が、そのアパートの建築が遅々として進まない。
会った瞬間から気になっていたのか。それとも、軽い親切心かは判らない。大沢とは知り合いであった事もあり、修は尚子の相談に乗る事になる。修は何度も大沢の元に話に行く。何故、建築が進まない。どうなっているのか。資材の価格が高騰して、資金不足に陥り、建築が継続出来ない。大沢はそう説明する。修は尚子を説得し、家屋敷を売却させる。後はアパートに管理人として住めばいい。所が、それでも建築は再開されない。大沢は言う。後、100万足りない。嘘だ。三木母娘、大沢、半々の出資で建築される筈のアパートだが、大沢は一銭も用意していない。尚子の体も狙っている。資金を調達する為に駆け回り、ついに大沢の欺瞞に気付いた修は、彼と対決する────。
さて、前述の通り、この作品は小林旭の初主演作。当然、「渡り鳥」シリーズ以前の作品だ。主人公は滝伸次では無く、田所修。元刑事の流れ者では無く、元ボクサーのドラマーだ。腕は立つが、決して無敵のヒーローでは無い。二桁を数えるヤクザ者を相手にすれば、いい所を見せはするものの、勝てる訳も無い。大沢に勝負を挑んだ修は、無惨にも敗れ去る。
倒れている所を、ヤクザ者の吉野に助けられた修は、彼に助けを求める。代償は、何でも彼の要求を呑む事。修は条件を呑む。吉野は大沢に圧力をかけ、脱税を初めとする犯罪の証拠を手に恫喝し、アパートの建築を再開させる。
問題が解決すると、吉野は修に代償を求める。それは、バンコクに渡り、諜報機関に身を投じる事。勿論、修に断れる筈も無い。渡航前、吉野は一日の猶予を許す。
「会って来い。日本一の女房か、日本一のお嬢さんに」
修は建築中のアパートに向かう。その様子を見て安心すると、尚子には会わずにアパートを去る。立ち去る所を発見されて、声をかけられはするが……明日、アパートの完成記念パーティが開く、と誘われる修。行ける訳が無い。それでも、吉野に口止めされている修は、笑顔で受託する。
自宅に戻った修は、雪枝を伴って、最後の思い出にと街へ繰り出す。豪華な食事をとり、豪華なホテルに泊まり、彼女と一夜を過ごす。
所が、次の朝目覚めると、雪枝の姿が無い。
最初は、些細な誤解だった。
修の不在中、尚子が訪ねて来た。尚子は近所の子供に、修の部屋を聞く。子供は「お兄ちゃんは出かけているけど、お姉ちゃんが居る」と答える。二人の関係は、子供には判らない。修宅を訪ねた尚子は、雪枝を「修さんのお姉様」と呼ぶ。雪枝は、修が自分を姉と偽って、尚子に近づいている、と思いこむ。修よりずっと年上である事に、引け目も感じている。それを皮切りに、小さな誤解が一つ一つ積み重なり、いつか、雪枝は修が自分よりも、尚子を愛しているのだ、と考える様になる。そして、ついに雪枝は、修と尚子の将来の為、自ら身を退き、姿を消してしまう。
修は吉野とタクシーで羽田に向かう。途中、自分の未練を詫びながら、尚子に電話をかける。パーティの準備をしていた彼女は、無言の電話に、相手が修と悟る。明るい、浮かれた調子で喋る尚子。その間、一言も発せずにいた彼は、唐突に別れを告げ、電話を切る。雪の中を走り去るタクシー。主題歌「女を忘れろ」。
ダイス転がせ ドラムを叩け
やけにしんみりする夜だ
忘れろ 忘れろ
鼻で笑ってよ
諦め切るのが男だろう
後は ドラムに聞いてくれ
しかし、アパート建築に奔走するあまり、バンドを解雇されていた修には、ドラムを叩く事さえ出来ない。
「渡り鳥」シリーズ以降、小林旭扮する役柄は、その殆どが「不死身のマイトガイ」と言う彼の二つ名を裏打ちする、無敵のヒーローだ。滝伸次しかり、野村浩二しかり、二階堂卓也しかり────画面狭しと暴れ回る、痛快無比な活躍は、見ていて実に気分がいい。田所修か、滝伸次か。もし、そう問われたら、10年前の俺は、迷わず滝伸次を選ぶ。だが、当然、俺はその頃より、10歳老けている。今の俺には、両者に甲乙が付けられない。
少年は大志を抱く。何者よりも強くありたい、願う。だが、年を経る内に、気付く事が有る。無敵で無くとも、男は、自分が男である、と言う、唯それだけの理由で、戦う事が出来る。何と?────世界とだ。
追伸:
小林旭の初主演作は「女を忘れろ」では無い事が判明。勘違いの理由は判らない。主演者表記で初めてトップを飾ったのは、「青春の冒険」。その内、レビューを書いてみよう、と思う。
First up date - H.17.03/06
Last up date - H.18.08/06
by YO - HIDAKAマッスル・ストーム
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