一時期、オーディオを趣味にしようと考えた事が有る。自動車が買えるDACにプリとメイン、外車を買ってお釣りが来るスピーカーを、部屋に並べたくなった時が有る。だが、結局俺は、扉を開いた所で回れ右。一歩も踏み込む事無く、おさらばした。
何故か?
どんな機器を揃えよう――――俺は毎日の様に、情報を収集した。回線上を駆けめぐった。その際、目にしたオーディオマニアの3割方は、偶々オーディオを趣味にしただけの一般人だった。
後の7割はイカれていた。
オーディオと言う狭い世界で、幼稚な選民思想に浸りたがる、いじけたオタク野郎が居た。虚勢された豚よりも意気地の無い連中だ。特定メーカーの狂信者が居た。「正しい音」などと言う迷信を追いかける、オーディオ道の修験者が居た。有りもしない正解を欲しがるのは、考える力の無い証拠。奴らは揃いも揃って、心の病気だった。あんな連中と同じに見られるのは、真っ平御免だ。俺が愛しているのは音楽であって、オーディオ機器じゃない。
理由はもう一つ有る。価格だ。5年前なら、特に悩む事も無く、買ったと思う。だが、俺もいい年になった。そろそろ、大人の分別が身についていい。そして、俺には収入の過半をオーディオに叩く事が、分別有る買い物とは思えなかった。
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――――では、これは何なのか?これが分別有る大人の買い物と言えるのか?4丁も同じ型の銃を買ったんだ。変態的と詰られても、返す言葉が無い。
言い訳をしよう。
「複雑な彼女と単純な場所」と言う本が有る。著者は矢作俊彦。その一章、「夢を獲える檻」で、氏は何本かの映画について語っている。日活無国籍アクション。石原裕次郎主演の映画だ。そこで紹介されている映画はどれも素晴らしい物ばかりだったし、俺は常々、氏の原点の一つとなったであろう、日活映画に興味を持っていた。本を読み終わると、俺は早速、アマゾンで3本ばかりを注文した。もし、この本が氏の作品初体験でも、やはりそうしただろう。それくらい、氏の語る日活映画は魅力的だった。
その後、暫く無国籍アクションを観続けた。その内、何本かは氏が言う程、面白く無かった。訂正しよう。氏の文章ほど、面白くなかった。はっきりと駄作の烙印を押してやりたい作品だって有る。しかし、残りは素晴らしく、特に「赤い波止場」を見終わった時、俺は自室で一人、拍手した。
石原裕次郎を観た。小林旭を観て、赤木圭一郎を観た。しかし、俺の心を捉えたのは、その誰でも無い。一人の敵役だと言えば、答えも説明も不要だろう。宍戸錠。またの名を、エースのジョーだ。
予め、下地は有った。矢作俊彦作品に登場する、彼をモデルとする人物達。「コルテスの収穫」のシモン=デ=レオン、「ハード・オン」の平田 譲次、そして「暗闇にノー・サイド」「ブロードウェイの戦車」に登場する、ブラックエースのジョウこと、ジョウ=ラミレス=モルテス。どれも飛び切りイカすキャラクターだった。そして、氏自らメガホンを取った「神様のピンチヒッター」と「ザ・ギャンブラー」。年を重ね、円熟の域に達した彼の名演に、俺は心底痺れたものさ。
トイガンは子供じみた大人の趣味だ。当然、俺も子供じみている。黒いコルトを片手に、俺は一言決めたくなった。
「こいつが俺のパスポートさ」
と。
ハンドガン戦に誘われる、その前の話だった。しかし、参った。日活コルトこと、コルト32のガスブローバックガンは、この世のどこにも存在しなかった。まあ、御陰でM945と出会う事が出来たのだから、悪い事ばかりじゃない。
後に、旧MGCが過去にモデルガンを発売している事が判った。生産はとっくに終了している。俺はオークションで発火済みの中古を1丁入手した。状態は最悪だっだか、贅沢は言えない。更に、ネットで未発火品を入手したが、状態は益々納得がいかない。パーテーションラインがもろに残っている様な品だ。どうやら、発火済み品は前オーナーが手を加えていたらしい。欲求不満を募らせている所に、台東ブランドに移ってからの、HW製が目に止まった。ブラックとグレーだ。迷わず買った。最初にHW製を発見していれば、ABS製は買っていない。グレーモデルにも手を出していないだろう。俺が欲しかったのは、あくまで「黒いコルト」なのだから。焦らされれば、焦らされるほど、抜け道を見つけた時の衝動は強まる物さ。
最初の1丁以外は未発火品だが、どれにもMGキャップは付いていなかった。仮に付いていても、しけって使い物にならなかっただろう。俺は早速、ミスタ・ロバート=デニーロに相談した。未発火品は観賞用にして、発火済み品をガスガス撃とう。そんな腹心算だった。
この時、ABS製の説明書を忘れて行った。発火済み品についていたカートは純正品では無く、適当な品を付けて寄越しただけの物と判明した。まあ、オークションの意味も意義も理解出来ず、御都合主義的なオンライン取引の場所に変えちまう、極東の田舎者相手に手に入れた品だ。この程度の洒落は、気にする程の事でも無いさ。ミスタ・ロバートは銃を軽く手入れすると、試行錯誤の末、発火出来る状態にしてくれた。
念願の日活コルトを発火し、余韻に浸っていると、友人が自分にも撃たせてくれ、と頼んで来た。1マガジンを連射したい、と。
所が、そいつが撃つと、何故か正常に発火しない。奴は何一つ間違えてはいないのに、だ。なにせ、俺とミスタ・ロバートが何度も確認したんだぜ。第一、俺が撃つと必ず発火するんだ。それが、奴に限っては何度試しても巧くゆかない。
結局、奴は発火を諦めた。「持ち主が撃てればいいんじゃない?」と、ミスタ・ロバートはそう笑った。
日頃の行いの違い?……チ、チ、チ。それは違う。たしかに奴は悪党だが、それなら俺だって変わらないんだ。宍戸錠はこう言ってるぜ。
「こいつだけが俺の相棒、俺だけがこいつのダチ公さ」
要はそう言う事なんだ。
判るかい?――――いや、判れよ。
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by YO - HIDAKA