ミシシッピ殺人事件
ふとした思いつきがキッカケですが、ファミコン初期のADVゲームにミシシッピ殺人事件というゲームがあります。ネット上ははじめリアルタイムで遊んだ世代にはクソゲーの1つとして有名なだけでなく殺人事件が起こる前に主人公が死ぬ等と愉快な演出でも有名なゲームです。私も初期のゲームとはいえアレな出来と考えていました。そんなゲームのタイトルをよく見てみると下に小さくACTIVISION .INC(以降アクティビジョン)とあります。アクティビジョン社と言えばアメリカで大量のゲームソフトを開発し一時代を築きアタリショックでエライ目にあい紆余曲折ありながら未だに会社があるほどの老舗です。
ミシシッピ殺人事件の突き放したゲームバランスやミシシッピ川を渡る船上を舞台にするなど洋ゲー臭がする理由が分かりました。薄々、海外のパソコンゲームの移植作だろうと思っていましたが案の定ですね。グ−グルで検索してみると結構な数がヒットします。原作名は『MURDER ON THE MISSISSIPPI』、コモドール64を筆頭にAppleIIやMSX2にまで移植されておりコモドール版だとドイツ語版もヒットしました。なんとコモドール・Apple2・ファミコンでの発売は1986年でほぼ同時期の発売です。海外での知名度の高さは今で言うマルチプラットフォーム発売のおかげか。それともゲーム自体の人気なんでしょうか。ファミコン版を遊ぶ限りでは人気をまったくもって理解できませんので多機種版と比べてみました。
コモドール64についてはロウ・オブ・ザ・ウエストの記事で軽く取り上げているので、何それ?という方はご覧ください。
各ゲームによるタイトル画面とか
【コモドール64】 【アップル2】
【MSX2】
【ファミコン】
上段2つがアクティビジョン社のオリジナル開発、下段がジャレコのライセンス開発です。こうして見比べてみると決してジャレコが手を抜いたのでは無いのが分かります。色数が少ないのでオリジナルタイトルをそのままファミコンに移植しても遜色ないグラフィックを作れたのでしょうが、ちゃんとタイトルを日本語に変えるだけでなく船の全景をタイトルに持ってきています。子供向けにはジャレコ版のが(そもそも本作をファミコン移植の対象に選んだ是非は横に置くとして)馴染みそうに思います。発売時期を考えるとグラフィックがんばっています。
またジャレコ版では原作者の名前がカットされているのも興味深いです。日本向けなのであえてカットしたのでしょうか?MSX2についてはグラフィック性能が他の3機種を抜きんでてますので別作品のようです。構図は立体的ですし字体も凝っていて気合いが入ってます。グラフィックだけで言えばMSX1で十二分に対応できそうなところでMSX2に移植のためオーバースペックを感じます。
※それぞれのハードウェアの初期型が登場したのはアップル2/77年コモドール64 /82年 ファミコン/83年 MSX2/85年となります。
スタート場面の違い
【コモドール64】
【アップル2】
【MSX2】
【ファミコン】
まずはグラフィックから比べていきましょう。
グラフィックへの強さを生かしてコモドール版が圧倒的な美しさを見せつけて、全体的に暗めの発色ですが二段式ベットに旅行カバン・部屋の調度品と旅の雰囲気が伝わってきます。全体的にグラフィックをまとめているのにカバン・壷などゲーム内のオブジェクトは一目で分かるようになっています。次点で美しいのはファミコンです。原色むき出しの初期ファミコンの絵だというのにオリジナルにかなり近いです。スラッとした探偵とずんぐりとした助手のコントラストも伝わります。ジャレコのくせにいい仕事です。
もっとも悲しい出来なのがアップル2版です。パソコン本体がおよそ10年前発売の機種向けへの移植なのでしょうがないといえばしょうがないです。本家のアクティビジョンが手がけてもこのグラフィックなのですから無茶はかなりしていそうです。だから助手が人間に見えませんが無かったこととします。
最後はMSX2です。一番最後に発売され最も新しいハードだけあって美しいです。壁のクロスやドアの描き込みなど丁寧な仕事です。しかしながらデッサンが一番狂っているのがMSX2です。キャラの大きさに比べてカバンは大きいですしベットは小さすぎます。この絵をみてベットのオブジェクトと理解するには若干の時間が必要です。横になったら足はみ出ます。ファミコン版であれだけシンプルなのに分かり易く描けていたのが……もったいないです。
次はテキストを見ていきます。といってもコモドール64-アップル2とMSX2-ファミコンのテキストは大体が同じですので英語と日本語の違いとなります。
基本的に分かりやすい和訳をしていますが冒頭のuntill New Orleansは日本語版でカットされています。日本版でもオープニングで説明はされていますが、ゲーム内でもう一度繰り返してもアメリカ地理に馴染みのない日本の子供にはピンとこないだろうという配慮がなされたと想像できます。そして原文ではチャールズの会話はお上品で上流階級っぽいのですが、これもジャレコはある程度意識して訳しているようです。1画面に収まるように和訳もしているので意外とがんばっていますね。
唯一引っかかるのが探偵の主人公と助手の名前です。原文だと探偵はチャールズ・フォックスワース卿、助手はリージスです。それが日本語版では探偵チャールズと助手のワトソンです。……探偵の助手でワトソンというと日本のユーザーは誰を想像するでしょう?そうです、名探偵ホームズとワトソンのコンビでしょう。こっからは私の妄想ですがユーザーに英国紳士っぽい探偵で推理ゲームなので名探偵ホームズとオーバーラップさせてやろうと考えたのではないでしょうか?ミシシッピ殺人事件の主人公がホームズだと思っていた人、手ぇあげてー。
比較をもうひとつ、グラフィックについては圧倒的すぎて気の毒なので触れません。文章を見ます。
まず日本語版からですがこちらはいたって普通です。簡潔ですが言葉のキャッチボールできています。テンポもいいですね。
それに比べると原文ではチャールズ卿とワトソンが大ボケかましています。以下直訳すると
リ:「先生!誰かが寝ていますよ」
チ:「うむ、床に寝ているなぁ、リージス。何とも気になる」
リ:「お待ちを先生、おそらく寝ているのではありません」
チ:「何故、そう言うんだリージス、事故か?」
リ:「えぇ、血だまりがあります」
sleepに死んでいるという意味もありますが、それでは以降の文が繋がりません。ジャレコの「倒れている」は自然にするために意訳したのだとおもいます。こうしてみると原文のチャ−ルズ卿って……。
音楽に関しては性能差を見せつけてコモドールのが良かった様に感じます。wavに変換したのを埋め込んでみたのでよかったら聞いてみてください。この音質を当時のファミコンに求めるのは酷ではありますね。アクティビジョン版ジャレコ版ともにマップが切り替わったときに音楽がなり始めて1フレーズ流れると無音になっていますので、ゲーム中に無音になるのは仕様のようです。
最後に文字では伝わりにくい操作性やシステムについてです。結論から言うと「コモドール:サイコー」「アップル:古いハードのなのにがんばったね、無理してるよね」「ファミコン:つくったプログラマー止めて国へ帰れ」、というのが感想です。ファミコンでは縦軸の移動が遅くてストレスがたまりますが、コモドール版ではスムーズに縦も横も動きます。アップル版は重めでしたが急に移動が鈍くなることは無く動作は一定です。やり比べるとファミコンの移動の遅さが目に付きます。ただでさえ落とし穴や飛んでくるナイフなど無駄なアクション要素があるのに操作性が悪く遊びにくいです。またアクティビジョン版ではパソコンの機能を生かしてセーブが出来ます。メッセージを聞き逃したら最後の不親切なつくりもセーブのお陰で我慢できる範囲になっています。またアクティビジョン版では入れない部屋が設定されていて、ファミコン版でトラップがあった部屋は入れません。死体を発見する前に死ぬようなことはありません。ゲームを進めてキャプテンの許可を貰ってから船員のヘンリー付いてきて貰わないと全ての船室には入れないようになっています。まぁアクティビジョン版にもナイフと落とし穴はありますが事件が起きてからトラップ発動なので不条理感はかなりなくなっています。当時はAVGでも即死トラップは多いので納得できます。
悪名高い殺人事件が起こる前に主人公が死ぬのはジャレコ オリジナルです。開発元のアクティビジョン社とは一切関係有りません。
入れない部屋の処理があるお陰でパソコン版では最初の選択肢が絞られて自然に操作が進んでいくのに、ファミコンでは全ての部屋に入れる自由度の高さから難易度を無駄に上げたようにおもいます。
結論としては原作は当時の出来を考えると可もなく不可もなくしっかりとした出来です。難易度は高いですがいつかはクリアできると思います。ファミコン版も出たばかりのハードでグラフィックや音楽はがんばっています。ジャレコは無能じゃありません。クソゲーと決めつけられた原因はパスワード無し&移動力の遅さのシステム周りの不備と、本来は大人向けのゲームをいきなりファミコンに移植することを選んだ上層部の責任でしょう。いくらポートピア殺人事件がヒットしたといえあの頃のファミコンは子供のためのゲーム機です。もっと遊びやすくしっかり作り混んでから発売して欲しかったです。
最後にコモドール版の箱グラフィックを
なんか血色が2人とも良いですね